この項目の理解のためには、まず「コラーゲンの基礎知識」をお読み下さい。以下にその要点を解説します。
コラーゲン分子(トロポコラーゲン)の両端にはテロペプチドがあります。テロペプチドが隣のトロポコラーゲンの螺旋部分に結合することによって強固な結合が形成され、生体内でコラーゲン線維として成り立ちます。
しかしこのテロペプチドはコラーゲン分子の中で最も抗原性が高く(=アレルギー反応を起こす原因となりやすい)、注入製剤として利用するには不必要な部分なのです。
ペプシンのような蛋白質分解酵素をコラーゲンに作用させると、テロペプチド部分が切断され、線維を形成していたコラーゲン分子をバラバラの状態にすることができます。これを「線維の可溶化(かようか)」といい、これによって作られたコラーゲンを「アテロコラーゲン」といいます。
アテロコラーゲンではテロペプチド部分が削除されており、非常に抗原性が低いためコラーゲン注入に利用することができます。
牛由来コラーゲン注入製剤の場合は、厳重に飼育された牛の真皮を用いてアテロコラーゲンを精製しています。
製剤は生理食塩水をベースにアテロコラーゲンの濃度が調整され、様々なラインナップとして提供されています。ZYDERM、ZYPLASTにはリドカイン(麻酔薬)が含まれていますが、アテロコラーゲンには含まれていません。
ヒト由来コラーゲン注入製剤の場合は、米国の若年男児より採取した皮膚より線維芽細胞(せんいがさいぼう)を抽出し、それらを培養することによって、細胞外へ分泌されたコラーゲンを精製しています。
複数のドナーから皮膚を採取しているのではなく、単一のドナーからの線維芽細胞由来のコラーゲンにより製品が供給されているため、感染性病原体などの混入の心配がありません。
精製後、牛コラーゲン同様にテロペプチドが除去され製剤化されます。ヒト由来コラーゲン注入製剤(COSMODERM、COSMOPLAST)にも、ZYDERMやZYPLASTと同じくリドカインが含まれていますので、注入時の痛みを軽減させることができます。